「ボストン茶会事件」は誤訳か?


index.html

「変な顔の帰国子女が何か言っているよ」
「どれどれ」

『……、あたしはアメリカで勉強してきたからさー、日本の教科書とか変な訳語が多くて分かりづらくて困るんだよねー。例えばさっきの世界史の授業でもさー“The Boston Tea Party”を“ボストン茶会事件”? 茶会って何だよ、常識的に考えればおかしいって分かるでしょ? だってあの事件にお茶会なんて関係じゃないじゃん。partyってのはさー誕生日パーティーとかのpartyだけじゃなくて、“党”って意味があるんだよねー。人の集まりのこと。アメリカ人なら誰でも分かることだけどさー、例えば共和党はRepublican Partyで民主党はDemocratic Partyだからねー。だから“茶会事件”は完全に誤訳で、訳すんなら“ボストン茶党事件”。が正しいんだけど、まあ訳さないで英語で理解すればいいんだけどね。日本人は英語できないからねー。だいたい文法とかやったって意味ないんだよねー、どうして日本人てさー、……』

「興味深い話だね」
「そうだね。しかし初めて聞いたよ。日本でも、例えばRPGで一緒に行動するグループのことを『パーティー』と呼ぶけれど、ボストン・ティー・パーティーの『パーティー』はそっちのパーティーだってことなのかね」
「彼女の言っているのはそういうことだね」
「うーむ、そうか。実を言うと僕は、さっきの世界史の時間、教科書を眺めながら感心していたんだ。植民地の民衆が立ち上がってアメリカ独立につながった事件なのに、『ティー・パーティー(=お茶会)』なんて優雅な名前をつけるとは、西洋人のセンスは洒落ているなあ、と。しかし僕が感心したのは全く筋違いで、実際は『茶会』ではなく『茶党』という真面目なネーミングだったというわけか」
「いやいや、それは彼女の話が正しかったらの話だよ」
「正しくないのかい?」
「正しくないね。同じようなことを言ってる人は結構多いけどね。『茶会』を誤訳だと言い切る根拠はないし、『茶党』が正しいと言い切る根拠もない」
「ほう、どうやら詳しそうだね」
「詳しくはないが、前に少し調べたことがあるんだ。話そうか?」
「頼むよ」

「webを検索すると、『茶会事件』を不適切な訳だとする意見は結構出てくる。こんな感じだ。(原文の改行は引用者が適宜削除)」
本当は、ボストン茶会事件ではなくて、ボストン茶党事件が正しいのです。日本語訳した時に、当時の翻訳者や学者は、【tea party】と聞いて、『ああ、【茶会】のことだな』と勘違いしてしまったんですね。
辞世の句。
なんとなく「???」と思わないだろうか。どこにも「茶会」のが出てこないじゃないか、と。ここに“ボストン茶会事件(BostonTea Party)“の大きな大きなマチガイが隠されている。なんと!Boston Tea Partyはなにも「茶会」ではないのだ。この場合のPartyは「党・政党」の意味。従って「ボストン茶党」といった訳が正しいのに、「茶会」なんていう日本語を当ててしまったものだからこんな誤解が生じる。私はボストンでこの話を聞いたとき、まさに「目からウらウロコ」だった。
“ボストン茶会事件(Boston Tea Party)”のマチガイ
「ティー・パーティー」から「茶会」と訳されるが「お茶会」ではなく、「茶税」に関する問題から、「茶党」と訳するほうが適切と思われる。
CaptainFleet
「ボストン茶会事件」という従来の訳。これは「茶会」ではないのですから、どうかと思います。ただ一旦定着すると、訳語はなかなか変わらないでしょう。
英語とねこ短歌
アメリカが独立するきっかけになった歴史的大事件であるはずなのに、「お茶会」のイメージがぬぐえなかったのは僕だけでしょうか。(中略)
「ボストン茶党事件」
この訳に遭遇したとき「お茶会」のイメージがぶっ飛んですっきりしました。
fake American Dr.kmr の ジャンク ENGLISH
Boston Tea Partyの「Party」は「茶会」ではなくて、「党」です〜。ゆえに、「ボストン茶党事件」が正解です。一昔前の歴史の教科書は、「茶会事件」になってるんですよねw
小学生ママは、今日も元気★
ボストン茶会 と世界史の教科書には 書いてあったが
そうか ボストン茶党 だ。
誤訳というか意訳・超訳? は怖いね。
サンフランシスコな日々 生活 旅行 ガイド 年金
何故、〈Boston Tea Party〉は、「茶会」事件と訳されているのであろうか。事件の実態を考えれば、「茶隊」事件、あるいは「茶党」事件と呼ぶべきではないのであろうか。
雪斎の随想録
「なるほどたくさんあるね。人から聞いたのを鵜呑みにしてるだけのものもあるようだが。」
「うん。それを除けば、彼らが『茶会』を誤訳とする根拠は次のようなものだ。“この事件は茶会じゃないんだから、『ボストン茶会事件』はおかしい”。帰国子女もそういうことを言っていた。」
「うーん、しかし…。」
「そう、君には、それが全く根拠になっていないことが分かるはずだ。さっき君が言った通り、このネーミング自体を冗談として解釈する見方があるのだから。」
「ああ。優雅な茶会とはかけ離れた事件だからこそ、それを『茶会』と名付けるところに面白みがあると僕は思ったんだよ。」
「その解釈が充分自然である以上、“茶会じゃないから”というのは根拠にならない。」
「だから『茶会』が誤訳とは言い切れない、おしまい。」
「いや、おしまいじゃない。これを見てほしい」
1773年12月、これを阻止するために数人のボストン市民がインディアンに変装して、この会社の紅茶がいっぱいつまった箱をボストン港に投げ込んだのです。植民地人たちは「ボストン茶会」を開いたのだと冗談を言いました。
[To stop that in December 1773, some Bostonians disguised themselves as Indians and dumped chests full of the company's tea into Boston Harbor. Colonists joked that they had given a "Boston tea party."]
J.バーダマン・村田(編)『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』(ジャパンブック)、2005年、pp.39-41
「ほう」
「この本は、バージニア大のE.D.Hirsch,Jr.教授(英文学)の書いた小学生用教科書 "What Young American Know about History" シリーズから、アメリカ史の部分を抜粋して編集したものだ。」
「ということは、英語圏の人間が書いた文章だ。」
「そう。英語圏の英文学者が書いた歴史教科書の一部だ。その中で、『Boston tea party』は『joke』として、つまり『茶会』として書かれている。」
「それならもう、『茶会事件』を誤訳だとは決して言えないね。ネイティブが『茶会』と解釈する実例があるんだから。“『茶会』か『茶党』か”という問題があったとしても、それは翻訳の問題じゃない。」
「うん。」
「おしまい。」
「いや、まだおしまいじゃない。僕は、『party』を『党』と訳すのはおかしいと思うんだ。」
「ほう、『茶会』がおかしくないという話だけじゃなく、『茶党』がおかしいという話もあるのか。」
「仮に、『party』を『党』と訳すとしよう。そのとき、『Boston tea party』の直訳は『ボストン茶党事件』ではない。」
「ではない?」
「普通に考えればね。だってそうだろう。『Boston』=『ボストン』、『tea』=『茶』、『party』=『党』だ。事件はどこにも無い。」
「ああそうか、逐語訳すれば『ボストン茶党』か。」
「そうなんだ。『ボストン茶党』だ。しかし『Boston tea party』というのは、植民地の人間が仮装してイギリス船に忍び込み、紅茶の箱を海に投げ捨てたという、出来事の名前だ。出来事の名前が『ボストン茶党』では、いかにもおかしいだろう。事件が党であるというのは意味不明だ。」
「なるほど、一方『tea party』を『茶会』と訳すなら、逐語訳でもおかしくないわけか。」
「そう、『ボストン茶会』という訳になる。これは出来事の名前としてもおかしくはないだろう。『茶会』は出来事だからだ。」
「うん。」
「だから、“この事件は茶会じゃない”という批判に対してはこう言えるだろう。“この事件は確かに『茶会』ではないが、それ以上にもっと、『茶党』ではない”。」
「で、『茶会』は冗談と考えれば自然に解釈できるが、『茶党』ではわけが分からない。」
「そう思って調べてみると、実際こういう記述も見つかった。」
そして結果は、一二月二六日のボストン茶会となった。茶会とは茶箱を海に投げこんだ事件のことであり、ボストンをおもな場所とはしたものの、そのほか各地でもおこった。
今津晃「独立革命前夜」、『日本と世界の歴史 第十六巻 18世紀★★』(学習研究社)増補版5刷 1981年、p.268
「逐語訳だね。」
「これが一番正しい訳だと思う。正しいというか、原語を最も尊重した訳だ。そして、分かりやすくするためにこれに『事件』をつけて『ボストン茶会事件』とするのも、逐語訳ではないが誤りとはとても言えないだろう。」
「じゃあ『ボストン茶党事件』はどうなのかね。茶のことで集まった人がボストンで起こした事件だから、呼称として間違いではないが。」
「呼称として間違いじゃないという意味では、そもそも『茶隊事件』でも『茶事件』でも『紅茶騒動』でも『ボストン港の騒動』でも何でもいいんだが、原語の『tea party』の訳としては微妙だ。」
「誤訳かね。」
「そこが微妙なんだ。web上にこういう記述がある。」
「茶会」という日本語訳は、間違っている!!
英語で言うと「Boston Tea Party」この『Party』は、政治の「**党」という意味で、
Xmas Partyや誕生日Partyという意味じゃぁない!
John Hancockという人が、ボストン紅茶党="Boston Tea Party"をつくり、
その党の人たちが本国イギリスの紅茶税に反対し、運んできた紅茶全てを海に投げ捨てたという事件です。
だからこの事件の前にも後にもお茶会なんて開かれてません、気をつけましょう。(何に?)
BAGI's HOME
ボストン茶党という、イギリス本国による茶への課税に反対する一種の政治結社がイギリス船舶を襲撃し、その報復を行ったイギリス軍との間で戦端が開かれました。暴徒と化した民衆を鎮圧するために派遣されたイギリス軍が市民に発砲したのです。
Jane と jmsdf の あじと
「『ボストン茶党』という名前の集団があったのか!」
「いやいや、確かにこの記述を読むと、そう名乗る『一種の政治結社』があったかのようだが、そんな記述はこの二つのページにしか見つからないんだ。それもweb上の記述だけで、紙媒体では一つも見つからなかった。」
「こうハッキリと断言されてしまうとつい信じてしまいそうだが、簡単に信じるわけにはいかないんだな。」
「実際、web上にはこういう記述もある。」
ただ、「茶党」という政治党派が当時の北アメリカ植民地に存在していて、
彼らの主導でこの事件が起きたわけではなく、
紅茶税の引き上げに反対する市民が、紅茶を積んだイギリスの貨物船を襲撃して、
積荷を海に投げ捨てたというごく普通の暴動ですので、
「茶会事件」の方が適切なような気はします。
★★★南北アメリカ史総合スレッド★★★」、>>131
「こちらが正しいなら、やはり『茶党』はあまり適切ではない感じがするな。」
「ただこれは事実問題だから、素人の僕としては、信頼できる文献が見つからない限り判断を保留せざるをえない。」
「ああ、ところで、今まで挙げられてきた資料は“『茶会』か『茶党』か”という問題に直接触れてはいなかったけれど、この記述は二つを比べた上で『茶会』を推しているんだな。」
「ああ、これは『2ちゃんねる』の世界史板にあるスレッドなんだが、>>125で質問があったのでいくつか反応があったんだ。」
125 :茶会?茶党?:03/07/25 04:27
 1773年にボストンで起きた、”Boston tea party”が
《ボストン茶会事件》なのか、それとも《茶党事件》が正しいのか、
ご存知の方、もしくは検証資料を知っていらっしゃる方
ご教示くださいませm(__)m
「やはり疑問に思った人がいるんだな」
「そうなんだ。>>125->>138あたりはそれに関連するレスがついている。」
「そこではどういう感じだったんだい?」
「おおむね『茶会』が正しいという感じだね。興味深いのが>>138のレスだ。」
茶会事件の名前は、茶箱を放り込む時の「ジョージ三世のお茶会だ!」
という掛け声(?)に由来する。
「ほう、いかにも歴史上の事件に関するエピソードという感じだね。」
「ああ、面白いんだが、これも真偽は定かじゃない。こういうエピソードを紹介している論文の一本でも見つかればいいんだが。アメリカ史の概説書はいくつか見たんだけれども、ボストン茶会事件についてそれほど深く突っ込んで書いているものは無かったよ。」
「…うーん。まあ結局のところ、茶党のことはよく分からないが、『tea party』は『茶会』でよさそうだね。」
「ああ。それは言えると思うんだ。」
「少なくとも、“『茶会』は誤訳だ”というのは誤りだ。」
「うん。」

おしまい




・web上の英語サイトを少し調べてみると、この事件の呼称に関して書いているところが一つ見つかりました。「BuzzFlash > Interview> Hartman」というインタビュー記事です。それによると、「the Boston Tea Party」という名前は1830年代までは使われておらず、その名前は1834年にGeorge R.T. Hewesという人がつけたものだそうです(この人は茶会事件の参加者で、事件当時10代だった人らしい)。で、そのことは James Hawkes "A retrospect of the Boston tea-party,: With a memoir of George R.T. Hewes, a survivor of the little band of patriots who drowned the tea in Boston harbour in 1773"(S.S. Bliss, 1834)→(Amazon.com) という本に書いてあるそうですが、現物はまだ見てないし、英語の本なんて読めません。

・会話の文体が奇妙なのは、『たのもしき日本語』の影響です。

・私は歴史や英語に関しては高校の世界史と高校の英語を習っただけの素人ですので、この文章は間違いを含むかもしれません。もし気付いた方は教えてください。


20051005up
by s1473